husky voice (ハスキーヴォイス) を、[しゃがれ声] と訳してある英和辞典がある。 |
ひどい、非道すぎる! |
それを読んだ中高生が、 |
「あぁ、ハスキーヴォイスって、魔法使いのお婆さんみたいなブキミな声かぁ」 |
と思ってしまったらどうする。 |
辞書にはこう書くべし。 ― husky voice = ジュリー・ロンドンのような声 ― と。 |
一説によると、最初に“ハスキーヴォイス”と呼ばれたのは、 |
1955年に録音された『JULIE IS HER NAME』の1曲目、 |
「CRY ME A RIVER」におけるジュリーの声だという。 |
そこで聴かれる歌声は、 [しゃがれ声] とは、ちょっとニュアンスがチガう。 |
どちらかといえば [抑えた声] [ツヤを消した声] という感じである。 |
聴く人によっては、 「哀しさ」「さびしさ」のような感情を呼び起こすかもしれない、 |
そんな声。 |
ジュリー本人は、自分の歌について 「声量がないから、ああいう歌い方になった」 と、言っていたようだが。 |
なるほど、声量のなさを逆に武器にするのか。 |
人は、遠くにいる人を呼ぶ時、大きな声で叫ぶ。 |
けれども、夜中に二人っきりだったら、小さな声で充分だ。 |
その点、ジュリーは大声を張り上げて歌ったりしないから、 聴く人が、すぐ傍で語りかけられているような錯覚を起こす。 |
もちろん、“ハスキーヴォイス”と命名される以前にも、そういう声の人はいたし、 その後も、ハスキーヴォイスは、さまざまなヴァリエーションを生み続けている。 |
けれども、そんな中でも、いまだに ジュリー・ロンドンの歌声はスペシャルな存在であり続けている。 |
![]() ![]() じつは、必殺の“ジュリー・ロンドン唱法”には、 “ハスキーヴォイス”にさらに第2、第3のワザがブレンドされているのだ! |
第2のワザ、それは“ヴィブラート”。 |
つまり、声を揺らして♪あ―♪から♪あぁあぁ♪に変化させるのである。 |
そうすれば、相手の心を揺さぶることができる。いや、本当に。 |
「声を揺らせば、心も揺れる!」リピートアフターミー! |
だが、“ハスキーヴォイス”と、“ヴィブラート”だけでは、ちょっと重たい。 |
ここは、聴く人のカカトがフワッと浮くような、 カラダが天にむかって2cmくらい引っぱられるような、 そんなスウィートな味付けが欲しいところ。 |
そこで、第3のワザは、 鼻の頭の裏側付近を意識しながら声を出す |
というもの。 [鼻声]とは、ちょっとチガう。 詰まらせるのではなく、上に抜く感じ。 |
これで歌声に[甘み]が出る。 |
ワタクシは、この技を“スウィート・ノーズ”と(勝手に)呼んでいる。 |
“ハスキーヴォイス”“ヴィブラート”“スウィート・ノーズ”の3つは、 ロックや演歌などなど、いろいろな歌を歌うときにも応用できるすぐれものである。 |
もちろん女性だけじゃなく、男性も使える。 |
では、ジュリー・ロンドンがどんなふうに使ってるか、ちょっと聴いてみよう。 |
♪Now you say you’re lonely♪ |
1音目から いきなり“スウィート・ノーズ”が炸裂! |
次に、ァ~ゥと伸ばしながら、“ハスキーヴォイス”にスライドさせる。 |
♪セイユアロンリー♪ |
と音が下がっていく部分は、“ハスキーヴォイス”の聴かせどころ。 |
ここでは、音の高低差と発声の変化との相乗効果を、うまく活かしている。 |
♪cry me a river♪ では、 まずクラーイのラーをストレートに伸ばしておいて、 リヴァ~のヴァ~に“ヴィブラート”をかける。 |
伸ばすところ全部に“ヴィブラート”をかけてしまうと、ちょっとしつこくなる。 |
ノン・ヴィブラートと対比させることで、 聴く人の心をさらに大きく揺さぶることができる。 |
追記: |
ジュリーの歌声は、唯一無二と言って良いが、 |
正直、表現の幅が、そんなに広くない。 「何を歌っても同じように聴こえる」 という批評は、 ある意味、いたしかたない部分もある。 |